精索静脈瘤―。
あまり聞きなれない病名のように思えますが、実は全男性の15%がこの精索静脈瘤になっている可能性が指摘されています。
精索静脈瘤って何?
精巣やその上にある精索部分に静脈瘤が出来ている状態のことです。
全男性のおよそ15%にこの精索静脈瘤があるとされ、男性不妊の場合には約40%に発症していると言われています。
どうして不妊に関係があるの?
健康な精子を産生するには、栄養と酸素を含んだ新鮮な血液が常に送られることが大切です。
しかし、この通路に静脈瘤が出来ることで血液が滞りやすくなります。
また、精巣は体温より-2度低い34~35度台で造精機能を発揮します。
しかし静脈瘤が出来ると血液が滞り、精巣の温度が高まることで、結果として造精機能が低下してしまうことが考えられます。
このようなことから精子が育つ環境が適切でなくなることで、正常精子が減ります。
また、精索静脈瘤がある精巣の精子はDNA損傷が正常男性に比べると多く、受精能力の低下や妊娠率の低下に結びつきやすくなってしまいます。
統計上、男性不妊の40%と高い確率で精索静脈瘤が見つかりますが、二人目不妊の場合にはさらに78%の確率でこの精索静脈瘤が見つかると言われています。
正常男性でも10人に1.5人の確率で発生する精索静脈瘤。
なかなか授からない場合には、その可能性を考えてみる必要がありそうです。
精索静脈瘤は自分で気づくことができる?
この精索静脈瘤はある程度は自分自身で気がつくことができる疾患でもあります。
そんな精索静脈瘤のセルフチェックは以下を参照してください。
精巣サイズが小さい
陰嚢の中にある精巣。
このサイズが小さいようであれば、精索静脈瘤の可能性があります。
(非閉塞性無精子症等の可能性もあります)
サイズの確認方法ですが、まず、陰嚢の皮に精巣(陰嚢の中に触れる丸いボール状のもの)を押し付けて、浮き上がらせてください。
その上で縦の一番長いところと、横幅の一番長いところを定規を当てて測ります。
それを以下の式に当てはめてみてください。
0.7×縦(cm)×横(cm)×横(cm)
ここで得られたのが精巣のおおよその容積になります。
14ml以上であれば正常です。
逆に12ml以下であれば容積は小さいと判断します。
精巣のサイズは両側が一緒とは限りません。
片側だけが小さい場合もあり、この場合は小さい方の精索静脈瘤を疑います。
寒い時も陰嚢が伸びている
通常、寒さを感じると陰嚢はぎゅっと縮んで、体により近づきます。
そして、暑い時には逆に陰嚢が伸びて、体から離れるように働きます。
しかし、精索静脈瘤の場合には気温に左右されず、陰嚢が伸びたままになっていることが多いです。
それは精索静脈瘤があることで精巣の温度が高まっているため。
なるべく温度を下げるために気温が下がっていても陰嚢が縮まらないのです。
この陰嚢も精索静脈瘤がある精巣側だけが伸びているという特徴があります。
陰嚢がデコボコしている
通常はつるんとした陰嚢ですが、精索静脈瘤がある場合にはでこぼこしていたり、皺が多数見られたりします。
また、袋の中に「うどん」が入っているように見えたり、「豆や虫」が入っているように見える場合もあります。
触ってみると、ぼこぼことしていることもあります。
以上が精索静脈瘤がある場合に自身で気づけるポイントになります。
では実際にこのような症状が認められた場合、どうしたらいいのでしょうか?
まずは受診をします
精索静脈瘤の可能性が疑われたら、まずは受診をします。
治療を開始するためには医師の触診、超音波などを行い正式に診断をしてもらう必要があります。
手術適応なのかどうかを判断してもらう
精索静脈瘤で、以下の項目に全て当てはまる場合には手術適応となります。
2.女性側に不妊症の可能性がない、またはあっても治療が可能
3.精索静脈瘤が触知される、または超音波で確認できる
4.精液所見が悪く男性不妊の可能性がある
これらが全て当てはまるようであれば、手術適応となります。
手術はどんな方法なのか
最もよく行われている方法が「精索静脈瘤高位結紮術」です。
手術時間は1時間程度です。
腹部を一部切開し、そこから精巣静脈を結紮します。
入院期間は3~4日程度となります。
保険適用となるため、手術費用は両側を手術した場合でも9~12万円程度となります。
日帰り手術はできないの?
精索静脈瘤は通常日帰り手術も可能です。
その場合、用いられる方法は「顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術」という方法が用いられます。
術後の侵襲が少なく、局所麻酔で行われます。
仕事への復帰も、デスクワークであれば翌日からOKとなることがほとんどです。
ただし、この術式は保険適用ではありません。
そのため、費用が高く両側の場合は42万円前後となります。
保険適用となる精索静脈瘤高位結紮術は大学病院などで積極的に行われていますが、不妊治療クリニック等では保険適用外の術式(顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術等)を勧められることが多いようです。
場所やタイミングにもよりますが、精索静脈瘤高位結紮術(保険適用)の場合は数ヶ月待ちが発生する場合があります。
術式については主治医とよく相談の上、決定する必要があります。
手術は痛い?
手術中は麻酔を行うため、痛みはないのですが、日帰りの顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術の場合に行われる麻酔で足の付け根、下腹部辺りは痛みが強いと訴える方が少なくありません。
術後は痛み止めの飲み薬で対応するのですが、初日は痛みが強い方も多いです。
手術をする以上、傷の痛みはある程度覚悟が必要だと思われます。
手術を受けたらどれくらい回復するのでしょうか?
精液所見の改善は51~78%程度です。
自然妊娠率は24~53%となります。
これらの回復は精子のDNA損傷率が大きく改善されるためだという研究報告があります。
さらに精子の総運動率、正常精子数も改善され、術後の自然妊娠率を調査した研究では1年目で妊娠に至るケースが43%、2年目では69%に達します。
この結果から、精索静脈瘤の手術を受ける効果は比較的得られやすいと考えられます。
精索静脈瘤・まとめ
いかがでしたでしょうか?
男性の15%と高い確率で発生する精索静脈瘤。
気になる方は今すぐパンツを下ろしてチェックです!
その一歩が妊娠にぐっと近づくことになるかもしれません。